ミュージカルDEVIL 2023日本版初日感想(ネタバレあり)
前置き
- 観た回は6/22(木)初日@梅田芸術劇場シアタードラマシティ
- 2021年のJapanプレビューコンサートは現地で観ました.韓国版はYouTubeにあるものをちらっと
- 書いている人は中川さんのオタクなので贔屓目はあると思います
- 原作(ゲーテのファウスト)はミリしらです
- 他の回も観る予定があるので,余力があればまた感想書きたいです
- キリスト教やそれに基づく考え方に疎いので,なんとなく感覚で受け止めているところが多々あります
- ネタバレに全く配慮していないので未見の場合は十分に注意してください
感想
キャスト面
- 中川晃教という役者,「神」を演じるのが上手くてたまらん.好きだ……好きです……後光が差してた……
- 中川さんの激しいのに静かな歌めちゃめちゃかっこよかった!いつも思うけどどこから声出てるんだろう.空から降り注いでくる恵みの雨みたいな清廉で純潔な歌.この声の透明度が大好きだし「神っぽさ」を演出する大事な一要素でもあると思う
- チュンジュさん初めまして!すっごい!歌がパーンと飛んできて気づけばBlackの世界に取り込まれてる
- 大山さんジョン&東山さんジョン影の「1人の人間が表現上2人に分裂してる」っていう息ぴったり感すごかった,逆パターンも早く観たい
- グレッチェンが等身大で悩み苦しんでる迫力がいい……
- 山野さん・伊藤さん・新太さんの3人がいてくれるこの安心感たるや.観る前に絶対に歌が上手いって分かるメンツだし実際に歌が上手いです.山野さんの低音かっこいい!
演出・衣装等
- Whiteの衣装,真っ白なのに装飾モリモリで単調さがないのがかっこいい!ロックスターみたい.羽があふれだしてるみたいなデザインは天使っぽさもある
- BlackはBlackで強そうな衣装.心なしかWhiteよりは動きやすそう.羽も生えてる……?
- X2役の衣装,WhiteががっつりアシメでBlackが(完全にではないけれども)シンメトリーなのアンバランスでいい.Whiteの方が堅そうでBlackの方が柔らかそうな感じがするのも,役としての本質を表しているように見える
- グレッチェンの衣装が青なのは聖母マリアのイメージ?
- ジョン影の衣装の向かって右半分が黒で左半分が白なので,下手側にWhite・上手側にBlackがいることが多いんだけど,絶対にそうと決まってるわけでもないので,それが白と黒がごちゃごちゃになってジョンやグレッチェンが混乱してズタボロになっていくさまを表しているようにも見えた
- アンサンブルが人間側の味方をするわけでもなければX側の味方をするわけでもなく,特定のキャラクターを演じるというよりは傍観者に近く,それでいて最初から最後まで一貫して同じ存在として客観性の高い立場にいるので,物語を見る目線がアンサンブルに沿う形になるっていう珍しい体験だった.面白い
- 斜めに突き刺さった十字架が,「どちらに転ぶか分からない不安定さ」を表しているようにも見えるし,"X"って文字にも見えるし,スクリーンとしての役割も果たしてる.すごい.字幕がこんなに違和感なく舞台装置として使われてるの初めて見た
- 照明の使い方は韓国版にちょっと似た?って印象.韓国のも全部観てるわけじゃ全然ないので分からないけど
内容面
- 曲調は基本ロッキーなのに静謐さもあって緩急の激しいところがとにかく好き.具体的に旋律が似てるわけじゃないけど,連想するのはCHESSやJCS(JCSは内容面でも色々と共通項があるのでさらに連想度合いは高い)
- 一言で「何の話なのか」を言い表すのがここまで難しい作品も珍しいと思う.強いて言うなら愛(広義)と人生の話です.愛するっていうのは執着することでも蝶よ花よと見境なく可愛がることでもない,相手のために魂と心を差し出すってことだって話……
- プレビューのときに最終的にもってた印象は,「神 vs. 人間」っていう構図がまずあって,人間の中からXが生まれてくるような感じだったんだけど,今回は神の側からXが生まれてくるように思えた.Xは人間に試練を与え裁く側の存在って感じがした
- X2役をとらえるための私的キーワード
- White: passive, absolute, static, silent
- Black: active, relative, dynamic, interactive
- Blackは能動的に動いて人間に干渉しようとするが,Whiteは受動的に待っていることが多くてあまり進んで人間に手を出さない
- Whiteは絶対的かつ静的な存在であり,他者にどう認識されるかによって姿や行動を変えることはないが,Blackは相対的で動的な存在なので,人間にどう認識されるかによって姿形や振る舞いを変え得る双方向性をもつ
- Whiteは秩序,Blackは混沌.それが歌い方の違いにも表れているように思う
- White(光)はBlackなしでも存在できるけど,Black(闇)はWhiteなしでは存在できない.でも,White(光)が輝くのは裏側にBlack(闇)がいるから
- WhiteとBlackは意識を共有した別個体みたいな……?それぞれ個別に意志はあるんだけど互いに干渉することはないしお互いに興味もない,むしろもう一人の自分みたいな感じ?
- WhiteもBlackも気づいたらそこに「いる」んだけど,Whiteがしれっといるのに対してBlackがぬるっといるから,それぞれ違う怖さがある
- 舞台の真ん中の窓枠みたいなところからにゅっと生えてきてニヤッと笑ったBlackさんめっちゃ怖かったです(褒めてる)
- X側はどうしてジョンに興味をもったんだろう?「本来は光を選んだはずの人」みたいなことも言ってたと思うけど何をもってそういう表現をしてる?この物語はたまたまジョンにスポットを当てたけど,ジョン個人を選んだことに大した意味はなくて,誰もがジョンになり得るから,そこを突き詰めて考えることにあまり意味はない?
- ジョン影は外からは見えないジョンの本心を代弁する存在ってことなんだろう.ジョン影が言ってることはグレッチェンにも聞こえてないんだと思う
- 布を被せられて寝かされてるグレッチェンの肉体の身代わりってジョン影がやってる?スウィングさん?今度確認したい
- 大山さんと東山さんはジョンとジョン影の両方の台詞も歌も動きも全部覚えてて回替わりでこなすの!?すごいな,間違えちゃいそうだけど間違えないところがプロ
- 真人間だったジョンがじわじわとBlackに侵食されていく様子がなかなかグロテスク.最初のジョンと堕ちた後のジョンを比べると全然違うのに,一気に変化するんじゃなくて少しずつ変わっていくから,ちゃんと気にかけていないと変わったことに気がつかないかもしれない.グレッチェンはちゃんとジョンのことを見てたって証明でもある
- ジョンとグレッチェンはお互いがお互いの鏡だから,片方が光を見てるときはもう片方は闇を見てて,片方が闇に堕ちたらもう片方は意地でも光に向かっていくんだなって
- Xからジョンへ提示された条件は「お前の一番大切なものを曇らせてはならない(ニュアンス)」で,手紙を読んだジョンは「自分の一番大切なもの=グレッチェン」って解釈してグレッチェンを守ろうとしてると思ったし,グレッチェンもそうなんだと思う.でもX側は「一番大切なもの=他人を愛し,思いやり,慈しむ心」って解釈でいるように見えて,そこに認識のズレがあるように感じた.私がひねくれた見方をしてるだけなのか,それを狙って作られているのかまでは分からないけど
- 上で書いたことの関連で,最後にWhiteがジョンを許して救うのは,ジョンの中に純粋にグレッチェンを思う気持ちがあることを認めたからだと思った.ジョンは一度はグレッチェンと縁を切ろうとしたし,グレッチェンはBlackに引っ張られていってしまったけれど,ジョンは本心ではグレッチェンのことをひたすら大事に思っていたから,そのことが献身的な行動にも表れて,それに免じて許してもらえたってこと.ただ,上の解釈が変わればこれも変わるから,結局これがどういう話なのかってやっぱり説明しづらい
- Whiteが直接救ったのはジョンで,ジョンが救われたことによって間接的に救われたのがグレッチェン?逆?これも上の「一番大切なものとは何か」っていう解釈に依存する気がする
- ジョンが引き返そうとしたときに目敏くワルプルギスに誘ってくるBlackやだー!ジョンが抵抗できなくなるの分かっててやってるでしょ!でも観てる分にはかっこいいから困る
- ジョンとグレッチェンが歌う「あなたは光」みたいな歌を後々Whiteがリプライズして,さらに後でBlackも同じメロディを使ってた?まるで「お前たちが忘れてもXは忘れないぞ」とでも言いたげに?あのときの言葉と決意は,ジョンとグレッチェンがそれぞれ自らに課した約束であり呪いだったんだ……
- ジョンとグレッチェンがどんな選択をしようが,それは各個人の意思によるものであってXのせいではないので,その結果もそれぞれジョンとグレッチェンが受け止めなきゃならない,っていうのが残酷だなあと.人生はそういうものだ,って話なんだろうけど
- ジョンとグレッチェンはこの話の後は穏やかに暮らしていけたのかな?またどこかのタイミングでXに出会ったらそのときはどうなる?もう大丈夫だと信じたいけど記憶なくしてるし……
- ジョンが迷惑かけた恩師?だっけ?途中で死んじゃったM&A先のあの人(名前忘れた)がめちゃめちゃかわいそうなので天国に行っててほしい.ジョンの記憶がまるっきりないんだとしたら,ジョンは二度とあの人のことを顧みてくれないだろうし
- Whiteを「天国を司る者」,Blackを「地獄を司る者」って考えたら,最後にWhiteはジョンとグレッチェンを現世に生き返らせたんじゃなく天国に連れて行ったって考えることもできる?考えすぎ?
- 人間にどう呼ばれようがXはXなので本質は変わらないってことなんだろう.私をミュオタにした親作品がキャッツなのですぐキャッツで例えたがる悪いオタクなんですが,要は「本当の名前は隠されたままなのだ」ってことだと理解しました.別に唯一のその名を求めてはいないと思うけど
- 「人間世界を知覚するためのフレームワークによって神の世界を知覚することはできない」というのを感じる.「人智を超えている」ものを「神」と呼ぶように.人間は神と触れ合うことはないし,仮に触れ合ったと感じたとしてもそれは人間の傲慢な幻覚だ,という……
- 神は本質的に理不尽かつ自分本位であり,人間を救おうという意志は特に持ち合わせていない,という前提で見るなら,Xがジョンとグレッチェンを散々っぱら振り回した挙句に何も対話を試みることはないまま放り出すことに違和感を覚えても意味がないし,その行動を「優しさも慈悲もない」みたいな理由で責めることにも意味がないんですよね,神って「そういうもの」なので
- ジョンの死に方変わった?プレビューでは銃口を顎の下に当てて撃ってたけど,今回はこめかみに銃を当てて引き金引いてた(たぶん)